第234章 花弁②
「………?!フロック?!まさか……船にしがみついて……ここまで……。」
「ハンジさん!!」
飛行艇の方から、オニャンコポンさんの焦りきった声が聞こえる。
「燃料タンクに穴が!!これじゃ……飛行できません!!」
絶望に近い言葉。
そんな……飛行艇が使えない?
この飛行艇を飛ばすために島の……元仲間を、みんな沢山犠牲にして……マガト元帥やキース教官も……命を懸けてくれたのに。
「――――まだだ。塞げば何とかなる……。」
「溶接の準備を!!」
「動けるものはエンジンを調べろ!!」
アズマビトの技術者の皆さんは諦めなかった。
各々が各持ち場で、再度タンクの穴の溶接やエンジン機器類の点検を急いだ。そんな様子を見ていてようやく私も、ハッとした。
――――何を私は、怖気づいているのか。
「――――おいナナ。お前まさか撃たれ……。」
「大丈夫です。」
リヴァイ兵士長に強い眼差しを向けてから、小さく頭を振って雑念を飛ばす。
人を殺す覚悟。
――――エルヴィンに言われていた。
人を殺すことがあることも理解しろと……いつかそれを行う日が来るって、自分でもわかってたつもりだった。
――――でもフロックさんのその言葉はぐるぐるといつまでも頭の中を渦巻いて、医者である自分を全否定しているような、心が割れてしまいそうな不快な感覚に苛まれる。
「どれくらいかかります?!」
ハンジさんが技術者の皆さんに問う。そんなすぐに直せるものには、見えない。
「……ブリキで塞げば何とか……一時間で……。」
――――と、僅かな希望をもう一度持ち直そうとした矢先。
カタ、と小さな音が鳴った。
それは技術者の皆さんの工具が小さく震えた音で……目に見えてそれはカタカタカタと震えだし、音も大きくなって――――……大地が、揺れ始めた。
それは紛れもない、破滅への足音だった。