第234章 花弁②
痛みが、走った。
それはよく見知った仲間を……アンカーで傷付けた心の痛みだ。
『ナナ!!!』
大きく聞こえた声は、リヴァイ兵士長とハンジさんの重なった声だ。私はその声に振り返ることなく、フロックさんに駆け寄った。
フロックさんは倒れ込んで……、気道から空気が漏れる音をさせて、その冷たい床には血だまりが広がっていく。
――――私が放ったアンカーは、フロックさんの首元に突き刺さっていた。
「っ……止血、を……!」
飛行艇を守るためだった。
だけど……私は本当に人を、仲間をこの手で傷付けた。
動揺を隠せず、震える手で止血を試みるけれど、ガタガタと手が震えすぎて何もかもうまくできない。
きっと顔面蒼白だったと思う。
そんな私を、フロックさんは残り少ない気力を振り絞って強く睨みつけながら、私に手を伸ばした。
自らのおびただしい出血に染まった、真っ赤な手だ。
とにかくその手を握って、気を確かに持ってと……医者の私は言うべきだった。
――――フロックさんはその血に塗れた手でまるでその罪を認識させようとするように、私の頬にベタ、と血を――――塗りつけた。
「――――あんたは、俺達を滅びに導く………死神だ……。」
その言葉はまるで鋭利な刃物のように、私の胸の奥にどん、と突き立てられた気がした。
……私は何も、言えなくて……処置どころか、死にゆく彼の手を取って話を聞くことも、なにも……しないで、ただ呆然としていた。
「俺を殺した……こと……、覚えてて、くださいよ……。ずっと……。」
「――――………。」
「ナナ!!大丈夫?!」
呆然とする私の肩を引き寄せて、フロックさんから引き剥がしたのはハンジさんだ。そして私をその後に駆けつけたリヴァイ兵士長に預けた。