第233章 花弁
「そうか。頼んだ。」
「はい。――――どうでしょう、不備はなさそうですか?」
最後のベルトをきゅ、と締めて……ナナは一歩俺から離れた。
「ああ……助かった。」
「では私はもうすぐ飛行艇の整備が終わるので……、様子を見てきますね。」
そう言って敬礼をして、俺に背を向けてぱたぱたと走り去った。
ハンジ達に目を向けると、アニが船に戻るその姿を見送ってからハンジはピークとライナーに疑問を投げかけた。
「君達もこっちでいいの?地鳴らしが止まったとして……のちのエルディア人の立場を考えたら……。」
確かにそうだ。
地鳴らしを止めたとて、エルディア人にとってはなにも変わらない。むしろ巨人の力をまざまざと思い知り、恐怖の象徴になってしまったこの先の世界で、巨人の力を宿すこいつらがどんな扱いを受けるかを想像すれば、むしろアズマビトのところへ避難していたほうが、マシかもしれねぇ。
だがピークは静かに意志を語った。
「悔しいけど……ハンジさん、あなたの言う通りマガト元帥は私達に最後の司令を残したんでしょう……力を合わせて為すべきことを為せ……と。」
「ピーク……。ぜひ今度車力の巨人の背中に乗ってその体温を感じなが――――」
「嫌です。何ですか急に気持ち悪い。」
ハンジの提案をぴしゃりと断ったピークは俺達に背を向けた。
「……相変わらず巨人とは片想いのままだなクソメガネ。」
「……すぐに仲良くなるさ。」
――――その後のハンジの言葉は……その先もずっと、忘れられないものになった。
「ねぇ……リヴァイ。みんな見てるかな?今の私達を死んだ仲間に誇れるかな……。」
「………ヤツみてぇなこと言ってんじゃねぇよ……。」
捧げられた心臓の重みに、重責に……報いることを一番に考える。
憑りつかれるんだ。
俺に背を向けたままのハンジの表情は見えなかった。