第19章 不穏
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私の生きる意味は、父の意志を継いで証明することだ。
壁の外に人類がいる。外の世界があるのだと。
そのために私は調査兵団団長という仮面をかぶり、人類を救うという大義名分の元で何百人という兵士を犠牲にしてきた。
それは誰にも理解されず、受け入れられるはずがない。
まさか共に手をとり歩む存在など求めてはいけないと思っていた。だから、特定の女性を作らなかった。
いつか絶対にその愛する人を切り捨てる日が来ることが分かっていたからだ。
いつか愛した女性は、私ではなく確実に人生を共に最期まで歩める男を選んだ。
実に賢明だと思う。
そんな中、彼女は突然現れた。
かつて私が目を奪われたその美しさを、母親からそのまま継承していた。
けぶるような白銀の髪と濃紺の瞳。一度だけ本で読んだ外の世界の海は、彼女の瞳のような色をしているのかもしれない。
驚くほど明晰な頭脳とは裏腹に純粋で世間知らずな、矛盾を抱えた不安定さにより目が離せない。
そして何より、彼女は私と同じように外の世界の存在を信じ、古の外の世界の文字を読み、話せるという逸材だ。
彼女となら、私は最期まで共に手をとり歩めるのではないか。
幾度となく、彼女を欲しいと思った。