第19章 不穏
「―――――幼い頃、学校で学んだ人類の歴史に疑問を持ったんだ。なぜ、誰も壁の外を見に行っていないのに、壁外に人類はいないとわかるのだろうか、とね。不思議なまでに整えられた歴史が、私には何かを隠しているように見えた。」
「………………。」
「それを父に、問うと―――――――――、私と同じように、この壁内の歴史に矛盾があることや、王政が歴史を改ざんしていると考えていることを、話してくれた。」
「そうだったのですね……!では、お父様と、いつもこんな考察やお話を?」
「――――――――いや。」
エルヴィン団長はふっと息を吐くと、瞳に少しの影を落とした。
「父は、死んだよ。殺されたんだ、王政側の人間に。」
「――――――!!」
「………もっとも―――――私が父との話を外に漏らさなければ、そんなことにはならなかった。私が、殺したようなものだ。」
エルヴィン団長の、小さく深い闇を垣間見た気がした。王政への不信感・怒り・恨み、そして自分のことを今もなお責め続けている。
その気持ちを想うだけで、胸が苦しい。
「………あぁすまない。そんな顔をさせたいわけじゃないんだ。楽しい時間のはずが、悪かったね。」
「―――――証明、してみせましょう、きっと。」
「…………。」
「お父様は、間違っていなかったと。」