第233章 花弁
「わかった。あんたが良い人だから、私みたいな敵にも話しかけてたんでしょ?エレンとの対話を諦めないのと同じ理由。いつ目を覚ますかわからないバケモノの相手をすることも……争いを避けるため……でしょ?」
アニのその言葉は、自分を守ろうとしているんだとわかった。
――――だから僕は否定も出来ずに黙った。
アニは黙ったまま、その場を立ち去ろうと立ち上がったけれど、僕はその手を握って引き留める。
逃がさない。
――――僕は “良い人” なんかじゃない。
「座りなよ。……あと前にも言ったけど良い人って言い方がやっぱり嫌いだ。大勢の人を殺した。軍人じゃない人も……子供も……そして……今生まれ育った島のみんなを裏切る選択をして……仲間を殺した……。」
そう、はっきり目に焼き付いている。
目の前で絶望の表情のまま、『裏切者』という目線を残して海に沈んだ……ダズのことも。
目を閉じる暇もなく息絶えたサムエルのことも。
「――――僕もとっくにバケモノだよ。」
――――だとしても。
だから得られるものもあると……まだ、僕たちの知らない “壁の向こう側” がきっとあって……そこにエレンと一緒に行けるはずなんだって、信じたいから。
だから僕は今ここにいるんだ。