第232章 愛惜 ※
「はい、どうぞ?」
「ハンジさん、失礼します。」
「――――ナナ。」
ガチャ、と扉が開いて、ナナと目が合った。
――――その瞬間、ナナが大きく目を見開いて私に駆け寄ってきて、座ったままの私にがば、と抱きついてきた。
「えっ、え?どうしたの、ナナ……?」
何があったのか心配になるほど、怯えたようにナナは私を離さない。
「――――ハンジさんが、遠くに行ってしまいそうで、行かせたくなくて……こうして、抱きしめてます……。」
その言葉にハッとした。
――――私は何を思ってた?
この子は感じ取っていた。
責務を果たす。それは即ち、死の覚悟だと……かっこよく言えばそうだ。
――――でも、心の隅で私は、少しだけ………死に逃げたいとすら思っていた。
それを感じ取ったのか。
侮れないな、この子の……人の心の奥底で痛みを発する部分を察知する力は。
「――――ありがとう、ナナ。」
「………私にできることは、他にありませんか……。」
「……………。」
困ったな。付け込みたくなる。甘えたくなる。
「――――そしたら、もう少し……こうしててくれる?」
「はい……喜んで。あと……もし宜しければ、歌っても、いいですか?」
「歌?」
「はい。エルヴィン団長が好んだ、外の世界の歌です。」
「いいね。聞かせて?」
「――――ハンジさんの心が、少しでも休まりますように。」
そう言って私の髪を撫でながら歌うナナの声は温かくて、滑らかに発される言葉の意味はまったくもってわからないけれど、それでもその言葉たちは無駄が無くて美しいと思った。