第232章 愛惜 ※
「――――……何を弱気な事を考えているんだか。ダメダメ、まだ私には……やることがある。」
ぼやけた視界では見誤る。
机に置いていた眼鏡を手に取った。
その眼鏡越しに両親を想う。
――――もう、母は死んだかもしれない。家族がどうなったのか、わからない。
でもそれでも……私はこの調査兵団で生きてきたことを間違っていないと胸を張れる。
――――そう、私の生きる意味をちゃんと最後まで、全うするんだ。
戦闘で巻き上がった粉塵に塗れて曇った眼鏡を袖口で拭って、私はまた眼鏡越しにこの世界をちゃんと直視する。深呼吸をして、頭を整理する。
――――情けないところは見せられない。
ここまでみんなを率いてきた。
最後まで諦めずに……調査兵団の団長に相応しく、私らしく……抗い続けるんだ。
「――――ねぇエルヴィン。もし私がそっちに行ったらさ、ちゃんと聞いてよ?恨み言が山ほどあるよ。――――あなたが団長なんかに、任命するから。」
エルヴィンが初めて私を班長に推した時の、あの少し意地の悪く引き上げられた口角と、面白そうに細める蒼い目を思い出す。班長になった時も、分隊長になった時も……それはそれは抵抗があったけど。――――でも、仲間の命を背負っていくその重責を、あなたの背負うものを少しは手伝えたみたいで……嬉しかったのも覚えてる。
――――それに、彼が呼ぶ「分隊長!!」という声が、私は好きだったな。
「――――モブリット。君も見てる?今の……私たちを。」
船室の窓から、空を見上げる。
君たちに恥じない戦う姿を見せるから。
――――どうか見守っていて。
そう、私も近くそっちに―――――………
その頭の中で呟きかけた言葉を遮るように、扉が鳴った。