第232章 愛惜 ※
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―――――こと、 と………眼鏡を置いた。
休息をとりたかったから?
いいや違う。
多分私は……嫌と言うほど見て来たこの現実に、靄をかけたかったのかもしれない。ぼやける視界に安堵する自分がいた。
「――――昔は……眼鏡をかけるとワクワクしたものだけどな……。」
過去の偉人、科学者、生物学者……色んな先人の知恵の詰まった紙の束。特に堅苦しいくらいの分厚さと、その厚みにも耐えうるくらいのがちがちの表紙がついたものが好きだった。
好奇心をその紙の束に向ければ向けるほど、なぜか視界がぼやけてしまって……、しぶしぶではあったものの、初めて両親が眼鏡を贈ってくれた時には、その視界がくっきりと晴れて……感動したっけ。
―――それがどうだ今じゃ……、視界に靄がかかって、いっそ見えなくなってしまえば楽かもしれないと馬鹿みたいなことを考えてはため息が漏れる。
パラディ島から南西にある、マーレ大陸のオディハ。
そこにはアズマビトが所有する格納庫があるらしい。そこで飛行艇の整備をして、今度こそエレンを止めるために飛行艇を飛ばす。けれど、整備を終えるまでに地鳴らしに追いつかれないか……それは賭けに近い。
これからのことを考えるにも、少しだけ一人になりたくて船の一室に一人、私はこもっていた。
オディハに到着するまでの束の間、みんなそれぞれ思うように過ごしている。ナナはリヴァイの看護につきっきりだ。そう、リヴァイが兵士長としてナナを待たないと決めたにも関わらず……重傷の体に鞭を打ってナナを迎えに階段を駆け下りたのには、驚いた。
そして……嬉しかった。
リヴァイとナナが深く繋がっていることが。
甲板から見下ろした時に見た2人は、散々戦って傷ついて、お互いがその傷を庇うように癒すように強く抱き合っていて……―――あぁ良かった、と思ったんだ。
私がいなくなっても、私の不器用で不愛想な人類最強の愛すべき友人は……あの最愛の存在が共にいてくれたら、色鮮かで素敵な……彼の言うところの『悪くない世界』で生きていくことができるだろう。