第232章 愛惜 ※
ナナの胸や腹に飛散した、どろっと濃いそれを指で掬ってナナの口元に寄せると、ナナはそれを愛おしそうに、ぺろりと舐める。変態じみた行為も受け入れるこの危うさが、愛おしくもあり心配でもある。手当の時に解いた包帯で体に付着した精液を拭ってやって、乱れる息を整えているとナナが悪戯に笑った。
「たった一回で息があがるリヴァイさんは、なんだか新鮮です。」
「うるせぇ、こっちは重傷なんだ。息もあがるだろそりゃ。」
「だからダメって、私言いましたよ。」
「その後にお前が俺を抱きたいって言ったんだろ。」
「……………。」
「……………。」
しばらく妙な沈黙が流れてから、2人一緒にふっと笑った。
「――――あなたには敵わない。」
「――――お前には敵わない。」
それからまた甘くキスを交わす。
「一緒がいいです。ずっと。」
「――――ああ、そうだな。」
「この戦いが終わったら……、時計塔に、行きましょう?」
「……懐かしいな。」
「あの日々にもう一度帰りたい。リヴァイさんと私だけの世界が始まった………あなたに初めて恋をしたあの日に………。」
「―――それに、お前をちゃんと外の世界に連れて行ってやらねぇと。じじぃとの約束を果たさなきゃならねぇからな。初めて見た外の景色が、巨人に踏みにじられた場所だけじゃつまららねぇだろう。」
「……はい。もし行けたら、また……一輪の造花を私にください。」
「……ああ。だがもっといいものをねだれよ。服も靴も、装飾品も色々あるだろ。」
「――――ううん、リヴァイさんがくれた、枯れない花がいい………。」
「――――なら、やっぱりなんとしてもエレンを止めねぇとな。――――お前が夢見る世界を、あの反抗期のクソガキに踏みつぶさせはしない。」
「………はい……。」
ナナは悲しげな笑みを浮かべながらそっと目を閉じて、俺の胸に頭をとん、と預けた。しばらくお互いの体温を感じ合ってから、ナナは凛とした所作でブラウスに腕を通し、自由の翼を背負った。
そしてすっかり団長補佐の顔で、背筋を正して心臓を捧げる敬礼をしてから、部屋を出た。