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【進撃の巨人】片翼のきみと

第231章 体温





あの日、焚火に照らされながら小さな声で……私に話してくれた。格闘術に長けたお父さんがいると。

――――アニの語り口調からは、実父ではないのかもしれないともとれた。けれど……アニにとっては間違いなく大切な家族だったんだろう。




「……だったらもう……私が戦う理由はなくなった……。……私は降りる。」





――――素性を偽って兵士として生きながら壁を壊して壁内人類を殺して、多くの兵士を殺して……そんな心が分裂してしまいそうなことにも耐えられたのは、守るものがあったからだ。



――――それを彼らは……失った。


もう戦えないという言葉は十分に理解できた。私と同じように苦悶の表情で彼らを見つめたハンジさんが、なんとかもう一度奮い立たせようとその言葉を紡いでいく。





「たとえ……今すぐ地鳴らしが止まったとしても、レベリオもマーレも壊滅状態は避けられない。それはマガトもわかっていたよ。だが彼は命を賭して私達を先へ進めた。それはレベリオやマーレのためじゃない。名も知らぬ人々を一人でも多く救えと私達に託すためだ。」





マガト元帥とキース教官の心臓を受け取って、私たちはまだ前に進まなければならない。それはどれほど辛いか。

――――でも、やらなきゃ。

受け取ってきた命を、無駄にしないために。





「――――だとしたら最初の疑問に戻るけど……あんたにエレンを殺せるの?」





崩れ落ちたまま床に手をついてアニは、アニの側で膝をついて寄り添うミカサに問う。父を殺したエレンを許さない。アニはそう言っている。





「私がエレンを殺そうとするのを……あんたは黙って見てられる?」





適切な言葉を探しているように見えるミカサは……なにも、言えなかった。その覚悟がまだミカサの中にはできていないと言うことだ。アニもまた、ミカサの心情を理解した。





「だからもう……戦いたくない。あんたと……殺し合いたくない。あんた達とも……エレンとも……。」





自分の心を守るために全人類を見殺しにするなんてあってはならないとみんなわかってる。それでもやっぱり……大切な人を、仲間をこの手にかける可能性なんて想像するだけで心臓がヒリヒリと痛む。



それが、愛している人なら尚更だ。



ミカサは黙ったまま……静かに、頭を垂れた。



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