第231章 体温
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コンクリートの港街の地面を、馬の蹄が鳴らす音は甲高い。
カカッカカッ、と鳴る音を、もっともっと早くしていく。馬の鼻息が荒く、ブルルル、と大きく息を吐いてとても辛そうだ。もうずっと最高速度を維持して走らせているから。
頑張って、お願い……!
私をあの船まで、送り届けて……!
もうあと数百mというところで、船が動き出したのが見えた。
間に合えば嬉しい。
でも間に合わなければ……、船を見送った後ここを何とか離脱して、別の方法を考える。
諦めないから。
だから私に構わず、船を出そうとしてくれたことが嬉しい。
調査兵団団長補佐として、この大事な局面を任せてくれた。
――――リヴァイ兵士長。
いつだってあなたは、私の憧れであり続けるんだ。
陸地からじわじわと船が離れ始めた。
ああ、これは間に合わないかな、と思った瞬間に私の目に飛び込んできたのは、満身創痍なはずの彼が、乗船口の長い階段を駆け下りてくる姿だ。
「ナナ!!!」
「リヴァイ兵士長!!」
――――行ってください、どうかエレンを……、そう言おうとしたけれど、リヴァイ兵士長は迷いなくその手を……指を失ってもまだ私を守ろうとする手を精一杯伸ばして、言った。
「来い!!!」
―――――その一言で、迷いなんて欠片も無くなるんです。
私は馬の腹を蹴って、落としかけたスピードをまた最速に引き上げた。
カカッ、カカッ、カカカッ、と段々と早くなる馬蹄が鳴る音が、一際大きく一度、鳴った。
港の最端で上手く踏み切ったその艶やかな青毛の馬は、数m先にいるリヴァイさんの元へ、私を届けるように跳んでくれた。私もまた、馬の背から伸ばされた手の方へと、迷わず跳んだ。
リヴァイさんの目が私を映す。
どこにそんな力が残っているのかと驚くほど私の腕を、指が3本しかない手で強く強く引きよせ、私はその胸に抱き止められた。
――――とは言っても、ものすごい勢いだったから、2人体を重ねたまま、乗船口の階段に、どさっと倒れ込んだ。そしてザバン!!と、馬の大きな身体が海に着水した水しぶきが私たちを濡らした。