第231章 体温
「あいつはこの船を出港させるために行った。命を懸けて。俺が許可した。この船を出港させて飛行艇を大陸で完成させ、エレンのクソガキを止める。――――そのためにナナは行った。あいつは目的を見失わない。」
俺の言葉に、オニャンコポンは目を見開いた。
「置いて、行く、ん……ですか?」
「――――間に合えばいい話だ。だが最悪の場合はそうなる。待ちはしない。自分のせいで世界が滅びるなんてことは、あいつは最も望まない。」
――――冷たいと思ったのだろう。
最愛の女を、なぜそんなにすぐに切り捨てるんだと。
最愛の女。
確かにそうだ。
――――だが今は……、調査兵団の兵士長として、調査兵団団長補佐のナナに託した。
それを私情で覆すことはしない。
なぜならそれはあいつを信じていないことになるからだ。
あいつの覚悟を、無下にはしない。
「――――いつの間にか肩を並べてやがる。生意気な補佐官だ。」
オニャンコポンは言葉を詰まらせて俯いた。そして言い聞かせるように俺の背中をバン、と叩いた。
「大丈夫、きっと間に合いますよ……!」
「……いてぇ。」
「あっ、すみません……。」
嘘じゃねぇ、確かに俺は覚悟をしてる。
最後になるかもしれない抱擁を、キスを、何度してきたか。
いつもなんでもねぇ顔をしているが本当はいつも怖い。
最後になるかもしれないナナの笑顔を目に焼き付けておこうとその紺色の瞳を見つめると、いつもナナは切なげに淡く、笑う。
今度もきっとまた、任務達成を俺に褒めて欲しいと…喜々とした顔で駆けて来るはずのナナの姿を探しながら、銃弾が飛び交い雷槍が爆ぜる戦場を眺めていた。
――――ナナ。
戻るよな?お前は。
いつでも、俺の元に。