第231章 体温
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遠目に、山沿いで機関車が横転したのを見た。
――――やったのか、ナナ。
だがそれで終わりじゃない。
ここまで無事戻れ。
必ず。
ピークの背に揺られて、海から回り込んで船に乗り込む。鳴りやまない雷槍の爆ぜる音と、銃声。聞いたことがある気がする声の、断末魔。
悲惨なその現場で、もう一つの巨人化の発光が起こった。
船の甲板から見下ろすと、そこには見たこともねぇ巨人の姿があった。かなりデカい……鳥を思わせるくちばしと爪を持った巨人だ。
「――――ファルコ……?!」
俺の隣で焦ったようにガビが身を乗り出す。
「おい、銃は常に構えてろ。何が起こるかわからねぇ。」
「あっ……はい……!」
顔を、首を捥がれて瀕死のアニとライナーを何とか助けようとしたんだろう。だが巨人の力ってのはそう簡単に操れるもんでもねぇと聞く。エレンも巨人化してすぐに……ミカサを攻撃して議会に吊し上げられていたからな。
無謀ではあれ、ファルコの巨人化でイェーガー派は混乱をきたしてる。戦況は僅かに好転した。
「出港準備はできました!あとは皆が乗り込んだら……出発できますが……、兵長、ナナさんが……まだですね……。」
オニャンコポンが俺の隣で心配そうにきょろきょろと辺りを見回す。
「機関車の脱線が起きたのがほんの数分前だ。あの距離なら……最速で馬を駆ってももう数分はかかる。」
「どう……します……?みんなが乗船したら、一秒でも早く出港、したいところですが……。」
「あ?」
「えっ、いや、あの……、待てないかも、しれませんよ……。」
「待つ必要がどこにある?」
「――――え……。」