第230章 狼煙
「馬鹿野郎、その作業の難度どうこうの前に、敵の前に単騎で突っ込むってことだぞ?脱線させる策を実行に移す前に、蜂の巣にされて終わりだ。」
「されません。行きます。」
「てめぇ……。」
“時間が惜しい!早く決めて!!”
ピークの言葉に背中を押されたように、ナナは息をひとつ大きく吸い込んで、俺に向かって心臓を捧げる敬礼をした。
「――――言ってください、行けと。」
なぜお前はいつもいつも、俺の言うことを聞かねぇんだ……。クソ馬鹿野郎。俺が無理矢理止められねぇのをいいことに………お前はまた、俺にお前がいなくなるかもしれない恐怖に耐えろと言う。
「――――……。」
「リヴァイ兵士長。」
「―――――行け。目標を達してすぐに船に乗り込め。失敗は許さない。」
「――――はいっ!!」
ナナが一人マントを翻して駆けて行く姿に、オニャンコポンとイェレナは呆然とし、ガキ共は開いた口を塞げずにいるようだ。
「っえ……ナナさん、無茶すぎですよ……!」
ファルコが焦ったように声に出した。
「そうですよ兵長……!行かせて本当によかったんですか……?」
オニャンコポンも信じられないと言う顔で俺に問いかけた。あいつの意志を、俺は曲げない。
「言いだしたら、聞かねぇ女でな……。」
「だとしても……!」
「――――それに、やる時はやる女だ。問題ない。」
「……なんか、いい、ですね……。」
虚勢を張った。必ずしも無事にナナが無事に帰る保証はない。――――例えこのままナナが帰って来なくても、俺達は何事もなかったかのように船でオディハを目指す。そういう、戦いだこれは。
いつも大切なものほどこの手から零れ落ちていく。
失いたくない、本当は。
―――俺は柄にもなく……未練たらしく、行かせたナナの背中を見えなくなるまで見つめ続けていた。