第230章 狼煙
しばらくその戦況を見つめていると……ナナがぴく、と反応して駆け出した。
「えっナナさん?!」
「誰かこっちに来てる……!何か伝えたいことがあるはず……!作戦の変更かもしれない!」
オニャンコポンが呼び止める声も聞かず、ナナは丘を下って行った。その姿は頼もしくて、病のことを知らねぇこいつらには、ナナの中を病魔が巣食っているとは想像もしねぇだろう。
丘を再び駆けあがってきて、息を激しく急きながらナナは心臓をおさえつつ、何とか声に出してその現状を伝えた。
「――――作戦、変更っ……、ここからの飛空艇離脱は諦め、飛空艇を牽引して船でマーレ大陸オディハへ向かう!!船に乗り込みます!!準備を!!」
アズマビトの整備士をやられたか、もしくは整備に必要なものでもやられたか……もしくは、すっかり敵地になってしまったこの島では整備の時間、飛行艇を守り切れねぇってとこか……。
“――――了解。みんな乗って。”
何にせよ、順風満帆ってわけではなさそうだ。
俺達はピークの背中にしがみついて、港の南から回り込む。
その道中、機関車が遠目に見えた。
あの機関車にイェーガー派の増援が乗っている……。増援が来れば余計に厄介、だが……今は足止めすることに時間を割いてる暇もねぇ。なによりこのメンツだ。腕が折れて戦意喪失している髭女、黒い操縦士、ガキ二匹。
――――そして、ナナだ。
ふと見ると、ナナも同じことを考えたのか……機関車をじっと見ている。
おいおいおい、またこいつは無謀なことを言い出すんじゃねぇだろうな。
「――――私、あの機関車をなんとかして脱線させて……増援を減らします。」
「――――あ?」
「先に行ってください!馬で追います!!」
ピークの背からヒラリと飛び降りたナナに、上官としての威圧も含めて行くな、と命ずる。
「待て、正気か?」
「正気です。これ以上増援が来てしまえば、死ぬ人が増えるだけです。機関車の走行原理は頭に入ってます。脱線させることはそう難しいことじゃない。」