第230章 狼煙
丘の上から戦況を見守る。
アルミンのクソ甘ぇ策が万が一上手くいけば……火の手も銃声も、巨人化の光も見ずに済むんだが――――……アルミンとコニーが作戦を決行して10分やそこら経たぬうちに、そんな希望は消え失せた。
島内人類同士の殺し合いの狼煙は二発の銃声だった。
その銃声の後にすぐさま、多くの立体機動装置を装備したイェーガー派の兵が建物から飛び出し、一斉に建物内へと雷槍を撃ち込んだ。
――――アズマビトの技術者を葬ろうって魂胆だろう。
だがそこにはハンジたちがいる。
――――うまく、守り切れればいいが……。
次の瞬間、思っていた通りに二つの大きな光が瞬いた。そうだな、もうあれだけ殺し合いが始まってしまえば……俺達は守らなきゃならねぇものがあり過ぎて不利でしかない。
鎧と女型を使うしか、勝つ道はないと言っていいだろう。
「やっぱりダメか……。なぜ……こうなるんだ……。」
戦況を見ていたオニャンコポンが言葉を零した。
「――――人から暴力を奪うことはできないよ。ねぇ?兵長。」
イェレナが俺に同意を求めるのは……、俺がいかに殺してきたかを知っているからだ。
こんなことはなんでもなかった。
仲間であっても、殺してきた。
あの巨大樹の森で……何人も何人も、部下の面影の残る巨人の項を無慈悲に削ぎまくった。
生きたければ、殺される前に殺すしかない。
そんな世界だ。
だがなぜか胸の奥がひきつるように少し痛むのは……側にナナが、いるからなのか。ナナもまた悲しい顔で……だが一瞬も目を逸らさず、まるで戦えないならせめて共に業を覆うとでも決めているかのように、強く握った拳を震わせながらその戦況を見つめ続けていた。