第230章 狼煙
「――――エレンが本当に私のことを、疎ましいと思って、いたとしたら………。」
私はどうしたらいい?と、その答えを……私に求めたかったのかもしれない。でもミカサはその先を噤んだ。
「ミカサの気持ちはミカサのものでしょう?」
「…………。」
「エレンの気持ちがどうであれ、ミカサが自分の気持ちを捻じ曲げて押し込める必要はないって……私は、思う。」
――――大切な人の幸せを願いたいのに願えない自分が汚くて愚かで嫌になって……、それでもどうやったってリヴァイさんとのことを、リヴァイさんへの気持ちを無かったことにはできなかった。
それはエルヴィンを深く乱して……傷付け合ってしまったけれど、その傷を一緒に治してエルヴィンとの絆は強く結ばれたから。
あの出来事がなければ、私が無理矢理リヴァイさんのことを押し殺して……エルヴィンの望む人形のようにただ側にいただけなら……、エルヴィンと信じあって共に駆けたあの日々はきっと、無かったものだと思うから。
――――間違ってなかったんだと、自分に素直にいていいんだと、思いたい。
「決めるのはミカサだけどね。少なくとも私は……私のままでいて良かったと思ってる。」
ミカサは少し俯いて何かを思考したあと、パッと顔を上げた。その顔は何か吹っ切れていて、清々しい目をしていた。
「――――うん。行ってくる。」
「行ってらっしゃい。どうか、無事で。」
「無事じゃなくても、ナナが治してくれるから大丈夫。」
「いくらアッカーマンでも手足は再生しないんだよ。気を付けて!!」
「ふふっ………、うん。」
ミカサは頼もしい背を向けて、僅かに笑んで戦場へと向かった。