第230章 狼煙
「エレンは私が治さなくてもすぐ治っちゃうよ。」
「――――兵長はそうじゃない。だから治して。あのチビの力は……悔しいけど必要だから。」
「……うん。必ず。」
「ねぇナナ。」
「うん?」
「兵長が好き、なの?」
「へっ?」
「………好きなの?」
「えっと……。」
いきなりこの状況で恋だの愛だのの話になるとは思っていなくて、少し目を泳がせたのだけど、ミカサは目を逸らさずに言った。
「真面目に聞いてる。」
色恋のことになんてまるで関心が無かったように見えるミカサが発した言葉に驚いた。けれどその顔は決して茶化すつもりなどではなく、なにか彼女の中での答えを探しているように見えたから……私は偽らずに、まっすぐに想いを伝えた。
「好き、どころか……心の底から愛してる。この心臓を、捧げたいくらいに。」
「エレンよりも?」
「――――エレンは家族として、ミカサと同じくらい大事。」
「――――………!」
ミカサは少し目を開いた。私は手を伸ばして、ミカサの艶やかな黒髪を撫でた。意外に猫毛で、細くて繊細で柔らかい髪だ。
「ミカサは、自分がエレンに向ける気持ちの答えを探しているの?」
「――――うん……。」
「それはとても大事だって、私も昔教わったよ。自分の気持ちの正体を知らなきゃ、相手に立ち向かえないもんね。」
「……でも、でも……もし……。」
「うん?」
ミカサが急に眉を寄せて、辛そうに目を伏せた。