第229章 結託⑤
「大事なさそうだけど、冷やしておこうね。ここの水は冷たいから、ちょうどいい。」
私は持っていた布を川の水ですすいで軽く絞ってからジャンの手に沿わせた。
苦しいその気持ちも……違う角度から見えるものが救ってくれることもあるから。そうやって私も何度も何度も助けられた。愛する人たちに。だから私もそんな何かを、少しでも見せてあげられたらいいなと思う。
「ライナーの手は、間違いなく立体機動装置を駆使してできるものでね。ほら、ジャンの手にもいっぱい……。医学的には、胼胝って言うんだけど……。」
「――――………。」
「育った国も、背負うものも、置かれた環境も、信じるものも違って……大事な人の命を奪い合うような形になってしまったけど……、『何かを守るために強くなろうとした』ことと、『こんなに手を酷使するほど鍛え続けた日々』は……その事実は、2人に共通して確かにそこにあったんだなと私は……思う。」
私の言葉を静かに聞いていたジャンは、少し俯いてギリ、と唇を噛んだ。上官に対しての遠慮を怒りが僅かに超えたのか、声を荒げて言った。
「――――そんな、綺麗ごとを言ったって……俺は、ライナーを許せないですよ……!」
「――――うん。そりゃそうだよ。」
「え……。」
「私もね、色々考えたよ。ジークさんの何を知れば、許せるんだろうって。憎いと、思わなくなれるんだろうって。でもきっと……無理なの。私は一生、ジークさんを許すことはできない。――――その顔を見るたびに、エルヴィンを返してって、思う。」
私は取り繕わない醜い自分を、そのまま吐露した。
ジャンは意外だという顔で、私を見下ろしている。
ぼんやりしていた薄い朝日が徐々に濃くなって、川の水面を照らして光を弾き始める。
世界がほんの少しだけ、明るくなり始めた。