第227章 結託③
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マーレの薬なんぞ怪しいものに頼りたくはなかったが……、ナナが身体を張って毒見をしたのは俺のためだ。それを……ないがしろにするわけにもいかねぇし、『よく眠れれば早く回復する』それは、医者のナナが言うんだ。本当なのだろう。
……なら、不本意だが飲んでやる。
一刻も早く回復してジークを殺して……約束を果たす。
そしてエレンの馬鹿を止める。
ナナがなんとか俺に飲まそうと薬を口移したその瞬間に、気まぐれにナナを乱す。
―――ずっと気を張ってやがる。
無理もねぇが……俺を守ろうと、必死だ。
そんなナナに、僅かにでも触れたかった。
ナナは悪態に似た言葉を零したが、その声は柔らかい。
「――――薬なんてなくても、随分楽だ。」
「……そうなんですか?それは、良かったです……!」
これまでも何度か俺自身軽傷の手当は頼んだことがあるし、重傷の仲間の処置をしているナナを見てもいたが……自分がこの有様になって理解した。
死を覚悟するほどの怪我をして……身体も自由に動かせず、呼吸すら苦しく辛い。襲い来る痛みに耐えながら、時折気を失うんじゃねぇかと思うほどの痛みが襲う。
そんな中で、目を開ければいつでも視界に飛び込んでくるナナの柔らかな笑みに、どれほど救われるか。
――――ナナの母親があの凄惨な奪還作戦で……、もう助かる見込みのない兵士に命を省みず駆け寄って手を握って言葉をかけたその意味を
腕を失ったエルヴィンが全てを預けきって安らかな表情でナナに抱かれていたあの時のあいつの心情を
俺は確かに理解した。
お前達が癒すのは、体の傷だけじゃないんだな。
むしろその心を、救ってくれる。
「――――これがお前が磨いてきた武器なんだなと、わかる。」
それがお前たちの生きる道なのか。
――――命を奪うことに慣れ過ぎた俺とは正反対な存在。
だから惹かれるのか。
こんなにも……お前に。
心のまま伝えたその言葉に、ナナはびっくりしたような顔で大きく目を見開いてから、泣きそうな顔で笑った。