第225章 結託
「――――にしては随分ひ弱なことだ。指の一本や二本失っただけでみっともない。巨人の力を借りての強さなら、あいつらは痛みに泣き叫んだりしないだろう。見習えばいいものを。」
ハッ、と鼻で笑ったマガト元帥の言葉に、私は我慢ならなかった。抱えていた薪を足元に下ろして、抗議の目を向ける。
「――――本気で言ってますか、それ……。」
「なに?」
怒りの滾った目でマガト元帥を睨む。一瞬も目を逸らしてたまるもんか。
「巨人たちが痛みを感じないとでも?切られれば痛い、叫び声を、断末魔を上げるような個体もいるんです。――――だって彼らは元々人間なんだから……!」
「人間じゃない、巨人になれる悪魔だ。」
「………あなたが共に戦うピークさんや……ライナーのことも、そう思っているんですか。」
「…………。」
「彼らが、痛みを感じないとでも思ってるんですか?!」
あぁ駄目、マガト元帥と少しでも打ち解けておかないと、この後の作戦に支障をきたすのに……。
でもどうしても許せなかった。
彼らだってきっと痛い。
身体も、心も。
悪魔なんかじゃない。人間なんだから。
なんて血の通わない事を言うのかと、怒りが沸き立ってしまって……食ってかからずに、いられなかった。マガト元帥は目を伏せて、想定外の言葉を呟いた。
「………いや………。彼らは………ただ、守るべきものを守ろうとしている、健気な子供達だ……。」
「―――――………。」
その表情はどこか悲しげで、あぁこの人もまた葛藤しているのかもしれないと思った。国の為に非情にも、巨人の力を軍事力として使うために子供たちを訓練してきた人。マーレという国で ”ユミルの民は悪だ、穢れた血だ、だからその命も戦力のために使って構わない” と植え付けられて来た生粋の軍人が……そのユミルの民の子供たちと長い時間を共有していくうちに、マガトさんの中にも僅かな変化が生まれたのかもしれない。
でなければ……本当に非情な人なら……彼らを『健気な子供達』だなんて言わないと思う。
時間を共有した子供たちを目の前で死なせることすらあっただろう。その時に何を思い、何を守るために何を押し込めてきたのか……私たちはやはり、お互いにまるで知らないことだらけだ。