第224章 地鳴
「――――おい、まさか……!」
そのガリアードに気付いたのは、一体の無垢の巨人。
獲物を見つけた、と、その長い首をぐりん、とガリアードに向けた。ライナーの項を齧っていたそれからすぐ標的を変えて、ものすごい勢いでガリアードに迫った。
――――なぜか俺は、刃を握りしめてトリガーを引こうとした。俺の体は、ガリアードを助けようと動こうとしたんだ。
でも、理性がそれを止めた。
あれは敵で……マーレの巨人の力を削げることに越したことはない。それに出て来たのは、本人の……ガリアードの覚悟なんだろう。
俺は小さく、唇を噛んだ。
その瞬間、大きく開かれた巨人の口がガリアードを飲み込んで……バリバリと、その骨を砕いてあっけなく……奴は食われた。
「………そうやって、散るんだろうな、俺も。」
覚えとくよ。ガリアード。
「――――見事な散り様だった。」
どういう感情だったのかはわからない。
でも、同じような歳の、全く違う世界で育った……なのに ”殺す” ことを生業にした者同士、通じる何かがあった気がしたんだ。
――――知りたかった。
似た境遇にいる俺以外の人間の心を知ることで、俺と言う人間を。
もうそれも叶わないか。
だからと言って、立ち止まるわけにはいかない。
ごくん、とガリアードを咀嚼して飲み込んだ一体の巨人を注視していると、蒸気を上げてみるみる巨人の体は消えて行った。
人に、戻ったんだ。
そこにいたのは、レベリオを襲撃した時に飛行船に飛び乗って来たマーレのガキだ。
サシャを殺した女のガキじゃない。もう一人の男のガキ。
――――そうか、ガリアードは……同郷の巨人化してしまったガキを人間に戻すため……自らの顎の巨人を、継承させたのか。
守りたかったのか。
――――その気持ちは、俺も知ってる。
俺も、守るために死にたかった。
こんな感情を抱くことはおかしいのかもしれない。でも俺は……兄ちゃんのことがやっぱり……羨ましい。
兵長を、俺を守って死ねるほうが………惨めに生かされて、無力さに絶望しながら生きていくより―――――……いいじゃんか。
そう、ガキくさい考えが頭のどこかに、こびりついている。