第223章 闘志
”――――うぜぇ、人間一匹に何ができる?”
そういう目をした、気がした。
顎の巨人はチラッと俺を見た瞬間、強靭な脚の筋肉をぐぐぐ、と撓らせて一気に解放した。すげぇ跳躍力で、10m以上の間合いは一跳びで詰めらる。が、俺も既にアンカーを刺している。
後退するように一度退く。
――――どうする。
速さは互角。
攻撃力は比じゃなく相手が上だ。
いや待て、殺せなくていい。
おそらく俺はこいつに勝てない。
――――エレンのところへ行かせるのを遅らせるだけでいい。
そうすりゃきっと……この混乱だ。
こういう時には兵団の統率力のほうが勝る。イェーガー派は乱れる。なにか兵団側の動きがあるはず。わずかでも兵力が集まれば……
ミカサ、アルミンに……ジャン、コニー……どこにいる?
お前らは来るだろ?
必ず。エレンを助けに。
「俺にはなにも出来ねぇよ。足掻くしか、な。」
俺の言葉に、”構ってる暇はねぇよ”とでも言うように、止めを刺そうと俺の方に距離を詰めて来た。
―――――兵長のやってた技。
見様見真似だけど……出来る気がする。
俺なら。
相手の動きがまるで止まったみたいに、一瞬が永遠のように長く感じた。ゆっくりと伸ばされた手の先の鋭い爪をかわして、体を捻る。ガスをふかしながら身体を回転させて、相手の腕を軸に遠心力を利用してその腕を捌きながら接近する。
”?!?!”
――――項までは、届かないが……、顎の巨人は危機感を覚えたのか、もう片方の、俺を仕留めようと振り上げていた手を項に当てて急所を庇った。
「そんな傷、すぐ修復するんだろうが……、でも、まだ付き合ってもらう。」
顎の巨人は……いや、あれは本人の……ガリアードの顔なんだろう。とても驚いた顔して、でも僅かに笑んだように見えた。
同じ年頃のただの人間が、顎の巨人である自分に張り合おうとするそれが滑稽に見えたのか、嬉しかったのか……それは、わからない。