第223章 闘志
「――――させるかよ……!」
顎の巨人を追うためにアンカーを射出する。あばらが痛い。激しい立体機動に耐えうる状態じゃないかも、しれない。
それでも……生かされた命を、無駄にしない。
俺は俺のやるべきことを、やる。
褒め称えられなくても。
人類を救う英雄になんてなれなくても。
――――そっちに行った時にただ、褒めて欲しい。
憧れ続けた兄ちゃんに。
顎の巨人は体が小さく、機敏性がずば抜けている。
街の細い路地を駆使して、気付かれないようにエレンの背後に回り込もうとしている。俺はそれを追いながら、車力の動きにも注視する。
――――武装するつもりか、一旦引きやがった。
今からその距離を詰めることは不可能だ。
なら、一体でも……顎の巨人だけでも、削いでおく。
一瞬顎の巨人が建物の物陰で息を潜めた。
――――狩ってやる。
何かが内側から滾るようだ。
闘志とでも言うのか。
アンカーを射出し、ガッと建物の壁に刺さったそれを頼りにワイヤーを巻き取る。スピードが乗ればアンカーを回収し、次の転換に備える。俺が近付く音を察知したのか、あと10mというところで顎の巨人が俺に気付いた。
即座に硬質化した爪を持った手を俺に向かって振り上げるが、片方のガスを目一杯ふかして方向を変えてそれを避ける。ザザザザ、と砂埃を立てて地面に着地した。
ズキズキと痛む骨が、不思議と俺を更に焚きつける。
「――――よぉ、ガリアード、だっけか?」
”―――――………。”
「アンタもアンタで色々背負ってんだろうが、俺にも色々あんだよ。―――――何かの縁だ。ちょっと付き合えよ。」
――――ほんとは怖ぇよ。
俺は兄ちゃんみたいに太陽を背負って、みんなの信頼を背負って、迷いのない背中を見せる生き方なんてできない。
でもさ、汚れ仕事なら俺の得意分野だ。
誰も見てないところで戦って、血に塗れて、ゴミみたいに散って行く。それでもきっと兄ちゃんとリンファだけは俺を見てる。きっと褒めてくれるから。
――――調査兵団の一員として、名も無い兵士としてここで心臓を捧げる。
――――――――――――ガラじゃねぇけどな。