第223章 闘志
足早に一室に入って行っては、立体機動装置をつけて出て来る兵達。どさくさに紛れて、何か情報を聞き出したい。
ピクシス司令の居場所を――――……足を踏み出したその瞬間、視線を感じた。
その視線を辿ると、俺がさっき目を付けた薔薇の紋章を背負った男が、俺を見ている。
混乱の雑踏の中で静かに一度、その男と俺の視線が交差した。
兵長みたいに襟足は刈り上げて、金髪を後ろに流した髪の……ちょっとガラの悪そうな、鋭い目つきをした若い男。
――――できる奴だ。
そう、思った。
と同時に背筋がざわ、と毛羽立った。
「来たぞ!イェーガー氏だ!!車力の巨人の女もいるぞ…!」
その声と共に、騒々しかった広間が一瞬で静まり返った。
――――御大層な存在になったもんだ、エレンも……。廊下の奥から、大勢の兵を引き連れたエレンが歩いて来る。
104期の面々ほど濃い絡みはないが……バレると面倒だ。僅かに、顔を伏せる。
チラリと目線を上げると、エレンの後ろに黒髪の小柄な女と手錠で繋がれた、サシャを撃ったガキだ。エレンはこの女を屋上に連れて行くつもりらしい。広間から階段を上っていく。
「あの小柄な女がマーレの兵か。」
「味方だって?」
小さく言葉が飛び交う中、階段の中腹からその女は俺達を見下ろして、笑顔で言った。
「よろしくねー」
その時の女の目線と――――、ガラの悪い薔薇を背負った男の目線は確かに交差した。
俺は確信した。
こいつらは――――……仲間だ。
だとしたらこいつも、マーレ兵だ。
ただの兵士がこんな敵地に一人で潜り込むか?
いや、自殺行為だ。
敵地ど真ん中に少数精鋭で送り込むとしたらこいつも―――――……
俺は早く鳴る心臓を抑えながら、そいつに注視していた。
すると俺の視線に気付いたのか、またその男は俺の方に目線をやった。
――――俺は一歩、奴に向かって踏み出した。