第222章 愛憐②
リヴァイさんの呼吸が少し落ち着いたところで、遠くにハンジさんが戻って来た姿が見えた。
「ハンジさん、どうでしたか。」
「ああ………。敵は、いない……大丈夫だ。進むことに関しては……。」
「………?」
ハンジさんが目を伏せたまま、辛そうな顔で言った。
その理由はその後すぐに、わかった。
川べりをもう少し上流に向かって進んだ先に、無惨な姿で横たわっていた金髪の女性の調査兵の姿。
それを見て、震える脚を何とか動かして側に寄る。
「――――アイビー………?」
目を細めていつも笑ってた、彼女のその綺麗な瞳に恐ろしく底の見えないような闇が射していて……目の前の失われた大切な人の命に反して、皮肉にも私は生きていると実感させようとでもしているのか、どくん、と一度大きく心臓が収縮した。
体全部の血液が押し流されるような感覚がして……私はがく、と膝をついた。
「うそ………。なんで………?」
「……腹部を撃たれてる。アイビーは……ここで倒れていたリヴァイを私が見つけて、私たちを逃がす手助けをしてくれた。おそらくそれが……フロックにバレて……。」
ハンジさんがぎゅっと拳を握りしめた。リヴァイさんを、ハンジさんを守ろうとしてくれたの。自分で考えて、自分で選んで……動いたんだ。
私は目を背けずに、アイビーの頬に濡れて張りついた髪を少し避けて、その表情をちゃんと見る。その表情はとても安らかとは言えない。
あの可愛かった笑顔は失われて、苦悶と絶望に近い顔だった。