第221章 愛憐
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―――――体の中から灼かれるような痛みと……鼓動がするたびに全身に痛覚というものがあるんだと自覚するくらい、鼓動に合わせて強烈な痛みが襲う。
特に右手の指は、もうそこにないはずなのに……まるで痛覚を固めた指がついているかのように、激痛を伴う。
痛みを逃がすためか自ずと呼吸が弾んでいるのがわかる。
――――クソが……、こんなところで油売ってる場合じゃねぇってのに……。
早く、ジークを殺して……エレンを止めねぇと……どんな命も救いたいといつまでも甘い戯言をぬかすナナが、最も望まないことだ。罪もない人間の命を踏みつぶすことなんざ。
そのナナが、ずっと俺の側にいる気配がする。
本当はその細い腕を引いて、引き倒して……このどうしようもない痛みを、あいつにぶつけて甘えて……その腕に抱かれたいと思う甘ったれた自分がいる。
だが、もう過ちは犯さない。
ナナに感情をぶつけて傷付けて泣かせて、何度後悔した?
――――こんな痛み、なんでもねぇ。
すぐ、治る。
人使いの荒い女に俺はまだ、応えなきゃならねぇからな。
なぜなら俺にはわかる。
今の俺の姿を見て……また起きろと、戦えと言うことに、どれほど泣きたい想いを押し込めて苦しみながら、覚悟を決めて言ったのかを。
本当は……もうどこかに逃げて、世界の波に飲まれて滅びるとしても、静かに……穏やかに、愛し愛されてその終末を受け入れて過ごしたいと、思ったはずだ。
それを、愛する娘と家族と、仲間と……そしてエレンのためにも、最期まで見届ける決意をするのにどれほど自分を奮い立たせたか。
――――そんなお前の覚悟に、俺が応えないわけには、いかねぇよ。
混沌とする頭の片隅に、心地よい音が流れ込んでくる。
俺の髪を撫でて、歌っているのか。
――――悪くねぇ。
まるで……幼い頃母さんがそうしてくれたみたいに……痛みは僅かに和らいで、ナナの温かい声と手の温度に、俺はまた心地よい眠りに誘われていった。