第221章 愛憐
パチパチと焚火の音だけが聞こえる静寂の中で……、私はリヴァイさんの寝顔を見つめていた。頬に手をやると、温かくて……ああ、生きてくれているとホッとする。
だけど時折、荒く息を吐いて眉間に深い皺を寄せる。
――――痛いんだ。
雷槍の爆発を至近距離で受けると、外傷よりも内臓へのダメージが大きい。一見大丈夫だと思った途端に血を吐いて亡くなる事故があったそうだ。
この衛生環境と応急処置が辛うじてできる程度の医療用具でまさか開腹することなんてできない……。
普通の人なら間違いなく死んでいただろう。
それでも会話が出来るくらいに済んでいるのはやっぱりアッカーマンの力なのか……だとしたら回復もそこに頼るしか、ない。
「痛い……?どうしたら楽になる……?」
腕を失った時のエルヴィンは、錯乱するほどの痛みにもがき苦しむ日々を過ごしていた。見るに耐えないほど。私を捕まえて、抱き潰しそうなほど強く強く腕に閉じ込めて、あらゆる場所を噛んだ。痛みを逃すように、耐えるように。
――――そんな風に頼ってくれたら……あなたが分けてくれる痛みなら、いくらでも受け入れるのに。
そんな行動どころか、『痛い』や『辛い』の一言も、あなたは発しない。指は……体の中でも特に神経終末の密度が高い。それだけ、感じる痛みも激しいはずなのに。
こうやってずっと、あなたは苦しいことも痛いことも辛いことも、1人で耐えてきたのかな。
強いから?
アッカーマンだから?
兵士長だから?
私の前では、ただのリヴァイさんでいて欲しい。
痛いって、辛いって……言っていい。
私はそっと、首に残るリヴァイさんの犬歯が食い込んだ痕をなぞる。エルヴィンを失った時のやりきれない思いを私にぶつけたことを、あなたはずっと後悔しているけど……あの時私は、嬉しかった。
あなたがあなたを曝け出せる唯一に、なれた気がしたから。
何もできないけれど、せめて少しでも安らかに眠りにつけるように、歌を口ずさみながら、その黒髪をさら、と撫で続ける。