第221章 愛憐
「このまま……逃げ隠れて……何が残る……。」
リヴァイさんは眠っていたから、聞こえていないと思ってた。
『いっそ三人でここで暮らそうか。ねぇ。ナナ。』
『――――とても……いい案ですね………。』
全てに打ちひしがれて、逃げてしまおうかと……ハンジさんと呟いたあの言葉を。
私とハンジさんは目を丸くして見つめ合って、バツが悪そうにハンジさんは俯いた。
「……何だよ……聞こえていたのか……。」
「……何を……作ってやがる。あれで……俺を馬で……引こうってか?」
リヴァイさんはハンジさんが作っていた、車輪のついた荷台を手で指し示した。
「蚊帳の外でお前らが大人しくできる……はずがねぇ……。」
ずっと不思議だった。
壁外調査の出立前。
リヴァイ兵士長は一人一人に声をかけて回る。
長く話すわけでもない。たった一言。
それなのに……なぜあんなにも兵の士気を上げられるのか。
それはきっと、こういうところなんだ。
――――私たちのことをいつもいつも見てくれていて、理解してくれているから。
こんな状況でもまた、あなたは私たちの背中を少しだけ押してくれる。
「あぁ……そうなんだよ。できない。」
「はい、私も……できそうにないです。」
「――――エレンのケツを拭くのも、俺達の役目だろ。最後まで。」
こんな時に泣きたくないけど、どうしても堪えられない涙が一粒ぽろりと、頬を伝った。
それをバレないようにさっと手の甲で拭う。
――――私は嬉しかったんだ。