第220章 覚醒
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星が降りそうな夜に、焚火が揺れている。
その焚火の上には鉄製の鍋に溜めた雨水が沸々と湯気を立てて煮立っている。雨水を湧かして、メスや縫合の針の消毒をしたり……煮沸したお湯を冷まして飲み水にする。
私は少しぬるくなった白湯を口に含んだ。
まだ目を開かない愛しい人の唇を指でそっと撫でて、唇を合わせる。少しずつ少しずつ水分を口移していく。もう半日眠っている。死ぬかもしれないという山場は越えたのだろう。呼吸も落ち着いて、集中して傷を癒しているように見える。これは……アッカーマンの力なのか。
ただ、いつ目が覚めるのか……覚めないのかは、わからないままだ。
「――――リヴァイさん……。」
その黒髪をさら、と撫でる。
今はハンジさんが見張りをしながら、壊れた馬車のパーツを寄せ集めてリヴァイさんを運べるように荷台を作ってくれていて、交替で可能な限り休息をとろうと言われた。
少し離れた場所から聞こえる木槌を打つ音と、焚火のパチパチという火が小さく弾ける音、お湯がふつふつと沸く音だけが聞こえる、怖いほど静かな夜だ。
リヴァイさんの容体も見ながら、微かに体温を感じるような距離で横になる。本来のリヴァイさんなら、この距離に私が接近した時点でその腕がぎゅん、と腰の下に差し込まれてすぐに私を引き寄せ、強く強く抱きながら……子供みたいに胸に顔をうずめる。そして安心したように眠る。そうやって眠っている時だけはいつも不機嫌にしかめられた眉も素直に眉尻が下がって、まるで少年みたいでふっとほだされるのだけど……さすがにまだ、抱きしめてはもらえるはずもなく少し寂しいなんて思いながら彼の寝顔を見つめる。
すると、小さく、ほんのわずかにだけれどその唇が動いた気がした。