第220章 覚醒
「――――何をしてる。立てよ。父さん。」
――――まるで悪魔さながらに、やれ、と囁く。
「忘れたのか?何をしにここに来たのか?犬に食われた妹に報いるためだろ?」
俺は全て視てきた。
父さんの記憶も、エレン・クルーガーの記憶も。
「復権派の仲間に、ダイナに、クルーガーに報いるために進み続けるんだ。死んでも。死んだ後も。これは――――、父さんが始めた物語だろ。」
そうだ、あの時あんたが妹の手を引いて、収容所を出なければ。
――――空に、自由に……憧れなんて抱かなければ。
始まらなかったんだ。
――――なんてそう、悪魔みたいに囁いてみるけど……本当はどう抗おうと、そうなる運命だったに違いないけどな。
――――父さんは、悪魔にとりつかれたみたいに自らの手を……人を救うはずの手を今度こそメスで突き刺して、力の限りの暴力でフリーダを食らい、ロッド・レイス以外、妻も幼い子供達もすべてを引き裂いて握りつぶして、殺した。
礼拝堂から俺を巨人化させるための注射器を持ち出して、精神が崩壊しそうな面持ちでふらふらと礼拝堂を後にした。
「……エレン!!レイス家を殺したぞ!!父親以外は……これでいいのか?!これでよかったのか?!エルディアはこれで……本当に救われるのか?!」
泣きながらみっともなく蹲る父さんの側に、無意識にか、ジークが少しずつ歩み寄った。
――――彼が憎み続けた、息子を洗脳する酷い父親は、その見る影もなかった。むしろ息子の俺に洗脳されたと言っていい、憐れなその姿に……いてもたってもいられなかったのだろう。
「……ジーク……。」
父さんにはジークの姿は見えていないはずだ。
だが父さんはその名を呼んで語りかけた。
「この先……お前の望みは叶わない……叶うのは……エレンの望みだ。……エレンの……先の記憶を見た。……しかし……まさかあんな……恐ろしいことになるとは……。」