第220章 覚醒
その空間で再び俺とジークが触れ合うと……ジークは思いのままに、俺を記憶の中へと引きずり込んだ。
ただその記憶はジークのものでも、俺のものでもない。
父さんの記憶だ。
よほどジークは俺に、自分と同じように父親を恨ませたいらしい。幼い頃の俺を抱いて笑う父さんを見ているときのジークの顔は、愛に飢えた幼子のようだった。
自分にしたように、洗脳のような教育を詰め込み厳しく当たったその姿を見せたかったのか……何度も何度も場面を変えた。それでもその後もジークが納得がいくような、『酷い父親』の姿を見せることはできなかった。
俺の記憶の通りの、愛情に溢れた優しい家族の時間が、流れていた。その上、エルディア復権派の使命とも言える壁の王……喰らうべき始祖の巨人の居場所を突き止めたにも関わらず、家族を守るために行動を起こさなかった父さん……グリシャの姿にジークは戸惑いを感じ始めていた。
――――わかったか?
俺は父さんに洗脳されたんじゃない。
「なぁ兄さん。あんたは俺とあんたが同じだと思ってたようだが……間違っている。他人から自由を奪われるくらいなら、俺はそいつから自由を奪う。」
場面は転換して――――、あの日の……山小屋で大人三人を、初めて人を殺した日の血まみれの場所に俺達はいた。
「見ての通りだ。父親が俺をそうしたわけじゃない。俺は生まれた時からこうだった。」
「生まれた時から?」
「あんたが望んだ憐れな弟はどこにもいない。あんたの心の傷を分かち合う都合のいい弟も。ただここにいるのは、父親の望んだエルディアの復権を否定し続けることでしか自分自身を肯定できない男……死んだ父親に囚われたままの哀れな男だ。」
俺の言葉に、自分でもわかっていたのだろう。どれほど父親を恨んだところで、自分の根本には父親に愛されたいという思いが歪んだものがあって、それを隠して武装するようにして……今ここにいる自分として成り立っているんだと。ジークは目を細め、苦々しい顔をした。だが、それを振り切るように鋭い目をして、言った。
「――――だとしたら、男は父親に感謝している。この父親の行いが息子を目覚めさせ、エルディアの危機から世界を救うのだから。ある意味世界を救ったのはこの父親だ。皮肉な話だと思わないか?エレン。」