第220章 覚醒
「心配ない。それは……始祖ユミルだ。」
「……始祖ユミルだと……なぜわかる?」
「始祖ユミルさん以外にこんなところをブラブラ歩いている人が他にいるか?」
――――思っていたのと、あまりに違ったから。
俺は戸惑った。
始祖ユミルは……何でも思いのままに操れて、何だって好きにできるはずの……絶大な力を持ったエルディアの頂点にいる存在だ。
その声一つで何万人だって支配できる。
さぞかし神々しく俺達を見下すようで、そして誰よりも自由で……そんな存在なのだろうと思っていたから。
「何より始祖は一度この土で俺の半身を修復し、俺を生き返らせた。始祖は……ここで巨人を作っているのだろう。俺達が巨人の力を欲する度に、果てしない時間を費やして……。」
その様相はまるで奴隷だった。
傷だらけの手に、ボロボロの服や靴。
――――さぞかし不自由だろう。
「ずっと……ここに……一人で……。」
同情じゃない。
そもそも時空も違えば、俺達とは違う次元の生物だ。
だけど……その体は確かに酷使された子供のそれで……。
まるで自分の意志を持たず、俺達の望みを叶えるために身を削って時間を費やしてひたすらに一人、この広大で無限にもにた空間で誰かに尽くし続けることを想像したら、なぜか心臓がぎゅっと苦しくなった。
「エレン……始祖ユミルに命じるんだ。俺達の夢を叶える時が来た。」
ジークの静かな声に、再びジークの方へ目を向けると、そう言えばなぜかこの男は……首に首輪のようなものを巻かれて、そこには何本もの鎖が繋がれている。この世界での自由を赦されていない存在だと、言わんばかりだ。
「その鎖は?」
「……今気付いたのか?この鎖に……まぁ……心配してくれてありがとう……。これは俺の自由を妨げるもの……つまり “不戦の契り” 。やはり……ここで自由に動けるのはお前だけだ。お前だけが始祖ユミルに命じることができる。」
不戦の契り。王家の血筋が始祖を継承すると発動する自縛の念のようなもの。それが本当にこうして、目に見える鎖としてここにあるなんて。