第219章 影
急いで馬車を走らせて、エミリーを家に送ってから僕も実家へと戻った。
母さんは今日も外来があるだろうし……家には戻ってないはずだ。それもそのはずで……、王都が王の都として機能しなくなってからは、地下街の住人達が地上に出て来ることも増えた。地下街は闇医者のような存在がほとんどで、ちゃんとした医師免許を持った医者に診て貰える機会がこれまでなかったからか、多くの人が母さんの病院に押しかけている。
それに母さんは無欲で……貧しい人からは気持ち程度の診察費とかかった薬代くらいしかとらないから、まぁ患者は増える一方だ。医学生のお手伝いを2、3人雇って、たまに僕やエミリーも手伝って、なんとかやってる。
「………こんな騒々しい中で、怖がってないと、いいけど……。」
馬車が着くや否や、僕は飛び降りて門をくぐって、屋敷の中へと急いだ。
――――けど、その目の端に入ったのは、ちょこんと庭の片隅に座っている、僕の天使の姿だ。
僕が彼女の4歳5か月の誕生日……いや、4歳4か月だったかな?……に贈った、小さなレディに相応しい上品なネイビーのワンピースを着て、空を見ていた。
その少し後ろでは、ハルが物干し竿に洗濯物を干していた。
「おかえりなさいませロイさま。良かった……、早く帰ってくださって。」
「あ、うん……この騒々しさだから……、何かあったらいけないって思って。」
「……おじさ!!」
僕の天使はすくっと立ち上がって、僕の方にててて、と駆けて来た。
「あっ、走っちゃ駄目だよ!!転んだらどうするの?」
僕は慌てて駆け寄って、彼女を抱き上げる。