第219章 影
「皮肉だよね。位置的には間違いなくこの島の中心にあるこの王都が……もぬけの殻で、まるでこの国をそのまま表してるみたいだ。中身のない、空っぽの国。」
「……そんなことないよ。」
エミリーは少しだけ悲し気な目をして、僕の手をきゅ、と握った。
「どうしてそう言える?」
「だって私たちが生きてるから。」
「…………。」
「あなたの天使もね。」
「――――……そうだね。」
エミリーの言葉に僕は研究室の窓という窓を閉め始める。
急に動き出した僕に、エミリー以外の研究員たちは驚きながら手を止めた。
「みんな、今日はもうおしまいだ。何かが始まった。………家族の元に帰ろう。」
僕が呼びかけると、みんなは驚いた顔をしつつも遠慮がちに言った。
「えっ…、でも、ロイさん……。特効薬の研究開発はもう大詰めで……、急いだほうが……。」
「――――うん。それはそうなんだけどさ。僕は正直者だから。」
「……??」
「この先の人類の多くを疫病から守るためのこの仕事は尊い。もちろん大事だ。僕の使命だと思ってる。――――だけど、その前に……1人の人間として、まず身近な愛する人を守りたい。それはみんなも同じでしょ?」
「――――………。」
僕の言葉に、ある人は窓の外に目をやって……恐らく家族を想った。
そしてある人はピカピカ輝く左手の薬指に光る指輪にそっと手を触れた。
そして僕は、エミリーに目をやった。