第219章 影
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馬車の車輪が大通りの石畳をけたたましく鳴らす音が、ずっと止まない。
窓の外を眺めながら思う。
ついにここでも始まったのかもしれない。巨人対人類じゃない、もっと醜い……人類同士が巨人の力を使って殺し合う戦争が。
「―――――……姉さん、どうしてるの。」
頬杖をつきながら窓の外をぼそりと呟いたその言葉に、彼女だけが反応した。
僕の手にそっと小さな温かい手を重ねて、彼女の方を見ると……僕と同じ、不安そうな顔をしたエミリーが、僕と同じように窓の外を見つめていた。
「……これから、何が起こるんだろうね……。」
「……さぁね…。」
この王都からも、どんどん人が離れて行く。
かつて王のお膝元であり、最も高い地価だったこの一等地も……今では外からの侵攻や爆撃を恐れて去って行く人間が殆どで地価も暴落。それでもまだ兵団のトップがこの王都の兵団本部に在った時にはまだそのわずかに残る威厳により、この街の安全はそれなりに保たれていたけれど、総統が殺されて、更に兵団が他地区へと拠点を移すことがほとんどになってからは……日に日に治安が悪くなっていくのが見てとれる。
金の匂いに敏感な商人たちは、外との貿易が始まってからはシガンシナ区よりさらに南、ウォール・マリアの南の地域に活動場所を移したこともあって、もはやこの王都はこの国の中心都市ではなくなっていた。