第219章 影
そうは言っても鎧はさっきのダメージでもう足もおぼつかない、且つ俺とはかなり距離がある。
――――もう一人の、顎は……と見渡す間もなく、左足がガクン、と何かに強く引かれた。
顎の巨人の、決死の足止めだ。俺のふくらはぎに食らいついて、放そうとしない。
――――なら、殺すまでだ。
そのうなじごとぐちゃぐちゃに叩き潰してやる。
顎の巨人は顎や爪は俺よりも強度が高い硬質化でできているが、その他の部位は普通の巨人となんら変わらない。そのうなじを硬質化で補強した拳で何度も強く打ち付ければ――――、殺せる。
血しぶきを上げながら両手の拳を弱点目がけて……その中身の人間を叩き潰すつもりで、何度も打ち付けた。
あと一発で殺せる。
そう、思った瞬間にまた、頭に強い衝撃と視界が散り砕けるような感覚がした。
――――――――――撃ち抜かれたか、クソ………。
体を動かせないまま倒れ込むと、どすん、どすんと地響きのような足音が近付いてくる。気付けば揺らぐ視界の中で、今度こそ俺を殺すと確かな決意を秘めた目をした、鎧の巨人と目があった。鎧は俺に馬乗りになって拳を振り上げ、俺はなんとかそれに抵抗する。
“――――エレン……今、巨人たちを呼ぶ……!!”
俺の耳に聞こえたジークの言葉は、脊髄液を飲ませていた兵団幹部の面々を巨人化させるというものだった。
「待ってくれ!!!」
その時物陰から飛び出して来たのは……ガキの手を引いたマーレ兵。そのガキには見覚えがあった。
―――――ファルコだ。
「ファルコが……!!あんたの脊髄液を口にしてしまったんだ!!叫ばないでくれ!!ジークさん!!」
俺を殺そうとして拳を振り上げていたライナーの動きが止まる。
そのマーレ兵は、ファルコの兄だ。
弟を守ろうとして……ジークに何かをひたすらに叫んでいるようだった。
そんな叫びを聞き届けて……ジークは、言った。