第219章 影
なぜ今こんなことを思い出すのか……そうかきっと、巨人の脳みそが吹っ飛んで……頭の中が混濁しているせいかもしれない。
ぼんやりとしかけた頭になんとか思考を取り戻して、ジークの方へ目をやった。
ライナーに命中した石つぶてを放った次の投石はまるで飛行船が何の障害にもなり得ないと言うほど圧倒的な力で、5隻全てを一投で打ち破り撃墜した。
ふらつく足で、ジークの方へと歩を進める。
今度こそ俺達が接触すれば……始祖の巨人の力を使える道が開くはずだ。
―――――なぜなら勲章授与式の日にヒストリアの手に触れたあの時、その未来まで俺は視た。
決まりきった、未来を。
早くジークの元へ。
そう駆け出した俺の後ろを、鎧が追ってくる。だがそこにまたも、ジークの投石が降り注いで……鎧はあっけなく地に伏した。家屋の屋根の上を俊敏に移動しながら俺の項を食い破ることを諦めていなかった顎も……ジークの投石によってズタズタに裂かれ、体のあちこちから血を吹き上げた。
次の瞬間、一瞬の気の緩みか……ジークが目線を他所にやった瞬間、ジークの首元を大砲のようなものが撃ち抜いた。その巨体はゆっくりとバランスを崩して、壁上からぐらり、と身体を揺らしながら轟音をたてて―――――地面に落ちる。
あと少し、あと少しで………開かれるのに。
その体に触れさえすれば、この島を守る恐怖の足音を呼び起こせるのに。
その時、俺はシガンシナ区の大通りに立っていて……落下してきたジークと俺の間には、何の障害もなかった。
駆けつければ、それが叶う距離だ。
ジークの方へと急こうと脚を動かすと、周りからマーレ兵の指揮が飛ぶ。
「ブラウン!!ガリアード!!獣と始祖を接触させるな!!始祖の力を使われたら終わりだ!!そうある前に始祖を食え!!」