第219章 影
『……俺、絶対に戦士にならないといけないんです……!』
俺がマーレに負傷者として潜伏を初めて仲良くなった戦士候補生のファルコは、長い睫毛を伏せて思いつめたようにそれを口にした。
『それはなぜ?』
『……俺が……鎧の巨人にならなきゃ……ガ…いえ、あの……大事な奴が、その役目を担うことになってしまうから……。』
ファルコは頬を染めて俯いた。
あぁなるほど、戦士にしたくないって子のことを、ファルコは好きなのか。
9つの巨人を継承して名誉を得たとしても、任期の13年が終わればただ死を受け入れるしかない。そんな運命から、その子を守ろうとしている。
復讐や憎悪といった禍々しい感情の合間から、懐かしい感覚を思い出す。
守りたい、生きていて欲しい。
その気持ちを俺も、抱いたことがあった。
いや、変わらず今も……抱き続けている。
――――ファルコのそれが、叶うといいなと思ったんだ。
人を愛する気持ちは、大きな原動力になるから。
だがもっと欲張ればいい。
その子の代わりに自分が13年の任期で死ぬ未来じゃなく、一緒に末永く生きられる未来を望めばいいと、そう思って……その時、凍てついて何も感じなくなったと思っていた俺の心のどこか隅のほうがわずかに、温かくなったのを覚えている。
安楽死計画をイェレナから初めて聞かされた時、その考え方も一理あるのかもしれないと思った。
――――だけど、命を懸けて誰かを守ろうとする姿を、俺は何度も何度もこの目で見てきたんだ。
俺とミカサを生かすために食われた母さん。
そして俺を守るために死んでいった調査兵団の仲間達……ハンネスさん……。
そして、病と闘いながらも腹に宿した命を守ったナナ。今もまた、子に未来を残すために戦っている。
――――そうだ、全てはこの先に自分たちの愛した者達が生きる “未来” を残すために、戦っている。それなのに……その未来を生きる者達が生まれないように操作するだと?
誰にそんな権利がある?
―――――俺達は……俺は、自由だ。
何よりも、誰よりも。
だから俺はその自由を求め続ける。