第217章 傷痍
「いっそ三人でここで暮らそうか。ねぇ。ナナ。」
私がまたぽろりと零した最大限の弱音。
調査兵団団長としての役割など放棄して、ただ流れに身を任せて我関せずという顔をして……穏やかに、暮らす。
――――そんな私を、ナナは叱るかと思った。
……けれど少なからず彼女自身も相当、参っていたのだろう。
「――――とても……いい案ですね………。」
ナナはふ、と悲しそうに笑った。
ナナの姿を再びじっと見て気付いた。
――――レストランで着ていたブラウスとは違う服……サイズの合っていないシャツを着ていることに。華奢な首にはぶかぶかの襟周りから覗く赤紫色の痕と、小さく見える歯形。リヴァイの手当をしようと破ったのであろうシャツの裾から、チラリと見える腹部にも、同じような痕。
「…………!!」
リヴァイとナナはもう一か月以上会えていない。ましてや肌を重ねることなどなかったはずだ。じゃあこの痣は誰が……?
そう言えばナナは……イェーガー派の兵士に囲われて………こんな痕が………できるようなことを……されたのか……。そう思えば、ナナのこの投げやりにすら見える表情にも、合点がいく。
――――もしリヴァイがこのまま息を引き取ったら、ナナは隣で一緒に死ぬんじゃないかと……怖くなった。
ナナの肩を抱き寄せると、ナナは素直にとん、と私に身体を預けた。
「――――よく逃げてきたね。頑張った。ナナ。」
私が小さくかけた言葉に、ナナは目に涙を溜めて……その愛らしい唇をへの字にきゅ、と結んでから……私に甘えるように、頭を垂れた。