第217章 傷痍
「―――――……痛い、よね……リヴァイ、さん………。」
あまりに長く感傷に浸ってる場合じゃない。
頬を伝う水滴をぐい、と拭って、今度は顔の裂傷を診る。あまりに傷口が開いているから、とにかく縫合をした方がいい。さっきテントの中から見つけた簡易的な医療用具があって良かった。震える指で針に糸を通して、ゆっくりとその傷を縫合していく。
彼の背中に爪を立てたことはあっても……この顔に針を通したのは初めてで……また、手が震えそうになる。
……けれどなんとか気を確かに持つんだ。
助ける。
必ず……。
目にかかる部位以外を縫合し、やがてその唇を縦に裂いた裂傷に辿り着く。……いつだって体は私を溶かすように熱いのに、その唇は少し冷たい。
その薄く血色の悪い唇の傷を、指でなぞってみる。
時折、口角を僅かにあげて『馬鹿野郎』って呟くのが好き。
悪戯に私を食んでは……印を散らしていくこの唇が、好き。
背筋がぞくりと震えるほど艶やかな声で、私を呼ぶ声を奏でるその唇が、大好き。
その唇は大きく裂けて血が流れ出ている。
なんとか布で止血をしながら、落ち着いた頃合いに傷を縫合する。そして私は、恐る恐るその瞼を持ち上げてその奥を確認した。