第217章 傷痍
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巨大樹の森の中を、ひたすら駆けた。
追手はない。
ただ早く、早く。
彼らのところに行って伝えなくちゃ。
早く、早く、早く、早く、早く。
頭の中で首をもたげる別の想像を掻き消すように、頭を横に振る。―――――だってリヴァイ兵士長達が拘留地へと経ったのはもう、ひと月も前で。ワインをまるで飲まずにひと月も、いるはずがない。ここまで飲まないでいるなら、最初から持って行ってなんてないはずで。
だから心のどこかで、『もう遅いんじゃないか』このまま駆けて行って……突然、目の前に仲間の面影を残した巨人が現れてもおかしくないと、そんな恐ろしい想像をなんとか頭の片隅に追いやって進む。
「お願い、お願い……どうか……っ……!」
視界が滲む中駆け続けて、雨が降りしきる決して良くない視界の隅で、簡易的に張られたテントの残骸を捕らえた。
手綱を引いて馬を止め、その方向へと歩を進める。
「ここは……拘留地だ……!」
30名の兵士がひと月も暮らすからには相応の拠点設営が必要だったはずだ。その残骸が……あちらこちらに残っている。
ひしゃげたテント……辛うじていくつか、原型を留めているものもある。火を起こしていたのであろう跡、荷馬車に繋がれていた台車の数々。
そして――――……置いたままになったワインの空き箱。
その有様を見て理解した。
雨雲が流れ行き、さっきまでの強雨ではないはずなのに……しとしとと、名残のように降る雨の音がまるで耳から全ての感覚を支配するように私の中に入り込んでくる。
私が目線を落とした先には……水たまりがいくつもできていて、それは明らかに……人間ではありえない大きさの足跡。