第217章 傷痍
「……おい、もう十分だろジャン。」
苛立ったようにジャンに言葉をかけたのは……コニーだ。
コニーはもうずっと……エレンを信用していない。
サシャが死んでエレンが笑った……あの時から。
「奴は完全にクソ野郎になっちまったってことだ。一番大事だったはずの2人を……意味もなく傷つけちまうほど……もう我を失っちまった。」
諦めたように、傷ついたようにコニーは、そう零した。
「……奴が正気だとしたら、何の意味もなくそんなことするとは思えない。何か……そこに奴の真意があるんじゃないのか?」
この時のジャンの言葉に……僕は随分救われた。
頭が……負の連鎖を起こす思考回路から、パッと切り替わったような……そんな心地だった。けれどミカサはそんな事も耳に入っていないようで、ただまた……黒く長い睫毛を伏せたまま、俯いた。
そんな重苦しい空気の中、石段をブーツのかかとが鳴らす音がした。コツ、コツ、コツ、と音がした方を振り返ると、そこには……相変わらず奥底の読めない塗りつぶしたような瞳の、イェレナが立っていた。
「お久しぶりです。シガンシナの英雄の皆さん。鉄格子越しでの再会でとても心苦しいです。」
――――どの面を下げて、と喉まで出ていた。けれどそれを代弁したのはジャンだ。
「良かったな、イェレナ。上手く事が進んで気分がいいだろう。」
そうだ。この人は最初から……こうなることを目論んでいた。ジークの脊髄液入りのワインをこの島の中で……特に兵団上層部を取り込むレストランに捕虜を従業員としてつかせ、そのワインを提供させたのも。
エレンを引き込んで、フロックを始めとしたイェーガー派を生み出す結果になったのも……全てこの塗りつぶされたような瞳には予め描かれていた未来だったのだろう。