第216章 片生
「……何があったか知らねぇけど……運がいい。一番の脅威が血塗れになってる。」
「―――でも念のため、頭に一発撃ち込んでおきましょうか。」
フロックの隣の兵士は……よっぽどこの人類最強が怖いのか……ライフルのボルトをカチャ、と引いて、弾を装填した。
――――撃たせてたまるか。
「死んでるよ。」
なんとか……なんとかこの場を切り抜けなければ。ここでリヴァイを失うわけにはいかない。人類のためにも……そして……ナナの、ためにも。
「至近距離から雷槍の爆発を受けたんだろう。訓練時に同様の事故を見てきたが……外傷以上に内臓がズタズタになって即死だ。」
私の言葉をフロックは信用しなかった。
「俺にだって脈くらい測れる。見せて下さい。」
その時、声を上げたのはアイビーだった。
一瞬、アイビーと目が、合った。
その一瞬で私は理解した。
アイビーはナナを逃がしてくれたんだ、そして今も……何かの覚悟を持って、私たちを解放するために策を考えているんだと。
「フロックさん……っ……!巨人の様子が、おかしいです………!」
10mほど先に蒸気を上げながら蹲っていた巨人から、激しい蒸気が発された。
――――それも、今までとはまるで違う。
通常なら巨人が消滅する時には蒸気を撒き散らして消えゆくものだが……それは確かに、蒸気を巨人の体の内側に吸い込むような形で消えて行っていた。
――――まるで何かの為に、力をかき集めているように。
不測の事態に備えて一斉に巨人に向かってライフルを構える。
――――逃げるなら、今しかない。
けれど……その吸い込まれて消えた蒸気の先に見たものに、私は絶望感を否めなかった。
――――だってそうだろ。
リヴァイがここまで負傷しながらも……彼を、致し方ない理由で殺したんだと思った。
……でもその彼は、巨人が消えた後に蒸気の中から……無傷で、むくりと立ち上がった。