第215章 悪夢④
「俺は……救ってやったんだ。そいつらから生まれてくる子供の命を……この残酷な世界から……そうだろ?」
体の芯から、言い表せられない負の感情が沸く。
この世にエルディアの血を引くガキが生まれることが悲劇だとでも?
死なせることで……救ってやっただと?
――――俺の頭に浮かぶのは、お前が悲劇だというガキを身ごもって……不安や恐怖、色んなぐちゃぐちゃの感情をなんとか整えて母になろうと前を向いたナナの姿だった。
――――月夜に腹をさすりながら歌を歌うナナを……
ガキの話を嬉しそうに満面の笑みで話すナナを……
そんな最愛の我が子を置いて、涙も見せずにこの戦場に戻って来たあの時の……下手な嘘をついて強がった切ない顔のナナを。
――――悲劇だと、可哀想だとでも言うのか?
何も知らねぇお前が……、知った顔で俺達の未来を決めてんじゃねぇ。
――――お前なんかに救われなくても……未来は自分たちの手で選び、掴むもんだ。
「…………また足が伸びてきたみてぇだな……。」
切り刻んでやる。
お前自身が、生まれてきたことを悲劇だったと呪うほどの苦痛を与えてやる。負の感情が混ざり合って泥のようにじわじわと、俺の中を埋め尽くしていく。
刃を抜いたその時、これまで抵抗する気力もなさそうにぐったりと横たわっていたジークが、決死の形相で叫んだ。
――――俺はあの時怒りや憎悪にとりつかれて……僅かに、察知が遅れたのかもしれない。
「クサヴァーさん見ててくれよ!!!!」
いつも飄々と余裕を見せていたジークが、初めて――――……命を賭けるほどの信念の一端を見せた。
その気迫に身震いするほどの嫌な予感を感じ取って―――…体が咄嗟に防御態勢に入ったのと同時に、ジークは自ら身体を大きく仰け反らせ、雷槍の信管に繋がるワイヤーを引いた。
「がぁあッ!!!」
ピン、と信管が抜かれたその光景は、まるでその一瞬が数秒にでも渡ったようにゆっくりと動いたように見えた。
刃を盾に、雷槍から距離を取ろうと後ろに避けようとしたが………
―――――――――――遅かった。