第215章 悪夢④
――――今すぐ、この場で………このままその喉を切り裂いて、心臓に刃を突き立ててれば殺せる。
エルヴィンに誓ったそれを今すぐ果たしてやりたい――――……その衝動を抑えられているのは……この世界から忌み嫌われ、破滅を望まれるエルディアをどうにか存続させる方法を、こいつが握っているからだ。
その忌まわしい構図をひっくり返せば……エルヴィンとナナが共に夢見た、呆れるほど “素敵” な外の世界を……ナナに見せてやれる。
――――ただその為に、こいつはまだ……有効に使わねぇと。
――――だがそんなに甘くはないと言うように……水分を多く含み、太陽の光を遮断するほど暗く重そうな雨雲が俺達の頭上に流れて来る。
ぽつぽつと降り始めた雨はあっという間に本降りになり、俺達の進む道から見える川の水もみるみるカサを増している。ザアアアアアア、という雨音とうねるように濁流が流れる水音の合間に、微かに荷台の方からつぶやきが聞こえた。
「……唯一の……救い……。」
ジークの口から出たのであろう言葉に、前を向いて馬の手綱を引いたまま聴覚を集中させる。
「――――エルディアの………安楽死………。」
「――――何つった?安楽死だと?」
――――その言葉の意味が理解できず、馬を止めた。
荷台の方へ降りてジークを見下ろすと、先ほどとはうってかわって何かを諦めたのか……悟ったのか……、呆然とただ一点を見つめて、浅い呼吸をしていた。
「お前はこれから臭ぇ巨人の口の中で自分の体が咀嚼される音を聞きながら死ぬわけだが……、お前にしちゃあ随分安らかな死に方だろ?お前が奪った仲間達の命に比べてみれば。」
「………奪ってないよ………。」
――――命を奪ってない?
どの口がそれを言う?
俺は見た。お前の無駄に長い手で振りかぶって……投じられた弾丸のような石つぶてが――――……仲間の頭を吹っ飛ばして……、エルヴィンの腹を裂いたのをな。