第214章 悪夢③
奴の項の硬質化も雷槍の前には無意味で、発破した中からズタズタに引き裂かれ、皮膚は焼け落ち、顔の判別もつかないほど損傷したジーク本体が露出した。
1mmの同情の余地もなくその頭髪を鷲掴みにして、獣の巨人の体から引き剥がす。
「よぉ髭面。てめぇ臭ぇし汚ぇし不細工じゃねぇかクソが。」
――――誰かを見つけて巨人化させてこいつを食わせる。
――――食わせるべきはエレンじゃねぇ。ピクシスもこいつのこの状態を見れば首を縦に振るだろう。
髪を鷲掴みにしてジークを引きずりながらアーチの元へ戻ると……、アーチは巨人の消えゆく血に塗れて、涙を流しながら両手の刃を握りしめて俯いていた。
残りの数体は自分で――――……殺ったのか。
「アーチ、残りを仕留めたのか。………よく、生きていた。」
「………兵長………。」
「――――サッシュを………。」
守ってやれなくて済まなかった、と――――……言うのはやめた。あいつは俺に守られることを望んでいたわけじゃない。
あいつは――――……
「――――サッシュが……お前の兄貴が意志を貫いたから……お前は、生きてる。」
「―――――………。」
「俺はあいつに随分と助けられた。――――お前の兄貴は……すげぇ男だな。」
アーチは片手で顔を覆って隠すようにして――――……泣いた。
「……はい"………っ………!」
到底枯れそうにない涙を流し続けながら、アーチは答えた。
「―――もたもたしてる暇はねぇ。――――行くぞ。」
「………っはい……っ!」
俺達は巨大樹の森を抜けるべく、馬と荷馬車で移動を開始した。ふと風が吹いて……頭上から何かがひらりと、舞い落ちた。
それは木の上で巨人化した仲間の……破れた兵服の一部。
内側から引き裂かれてズタズタになったのであろう兵服の背中の翼の一部分だけが、まるで置いて行かれるのを嫌がるように、俺達の目の前に落ちた。
「――――お前ら……。」