第214章 悪夢③
振り返ってももうそこに、誰も何も……痕跡はない。
『――――ねぇ兵長!!!』
『兵長!!』
『どうしますか?兵長。』
『兵長、教えてくださいよ!』
なのになぜか、あいつらの声が聞こえる気がするのは――――……僅かに俺も、動揺しているのか。
それともこれが……ナナやサッシュが言う、 “心が削がれる” ということなのか。
そんな、らしくもねぇことを考えた一瞬、サッシュの声が、頭の中に聞こえた気がした。
『兵長は寂しがりやですもんね?』
「――――……うるせぇ。」
『俺がいなくなったからって、泣かないでくださいよ。寂しいのはわかりますけど。』
「――――………。」
人の頭の中ででも悪態をつきやがる生意気さは、昔から変わらねぇ。
――――ただそれだけの、小さな記憶を思い返しただけだ。
それなのになぜ……
こんなにも――――苦しい?
――――ナナ。なぁナナ。
お前はどんな顔をする?
サッシュが死んだと知ったら――――……泣き崩れるのか?
守れなかった俺を責めるか?
――――いや、お前はきっと……俺を力いっぱい、生意気に……その小さい身体で精一杯、抱きしめるんだろう。
――――俺の心を心配して。
そうしてナナの体温に触れて初めて……俺はサッシュの死を悲しんで……涙を流せるのかも、しれない。
「――――兵長?どうしましたか……?」
「―――――いや、なんでもねぇ。」
――――今はまだ、苦しいと自覚したそれを押し隠して……俺はまたそこから歩き出す。
――――安息の瞬間はまだ遠い。
いつもより重く感じる空気を吸い込んで、そこに眠らせた大事な奴らに別れを告げた。
「――――じゃあな。………そこで見てろよ、結末まで。」