第214章 悪夢③
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発狂したようにサッシュがいたはずだったその場に崩れ落ちて、地面を両手の拳で強く叩きつけながら泣くアーチに、また残りの巨人が群がってくる。
「ッ……、おい立てアーチ!!」
「………もう、いい………。」
「―――――あ?!」
アーチは全てを諦めたように、座り込んだまま空を仰ぐ。
まるでその場所が巨人の群がる地獄だとは思えないほど、巨大樹の隙間から覗く空は――――高く、澄んでいた。
その空を遮るようにアーチの視界に入るのは、捕食してやろうとアーチに向かって伸ばされた巨人の無数の手だ。
俺はアーチに群がる仲間の項を、続けて削いだ。
「――――リンファを失って……兄ちゃんも、仲間も……死んだ……、もう、嫌だ……。死なせて……、俺はもう、これ以上失うことに――――……耐えられない………。」
とめどなく涙を流しながら駄々をこねるように座り込むアーチの胸ぐらを掴んで、引きずるようにして無理矢理自分の足で立たせる。
「――――クソ甘ぇことを言ってんじゃねぇよ……っ……!」
「――――死なせてくれ……。」
「てめぇと俺を生かすために自らの命を絶ったのはサッシュの意志だ。苦しくても、泣き喚いて死にそうでも、のたうちまわってでも生きろ。――――それが生かされた者の使命だ。」
ジークに操られているはずの巨人が自死などできるわけがない。――――あれはサッシュが、強烈な自我でその行動を制したのだろうか。
真実はわからない。
だが確かに―――――……あいつは……俺達を守ろうとした。
あの時カタコトで言った言葉を、頭の中で繋げてみる。
『ヘイチョウ ニハ コロサセナイ』
――――そう、言ったんだろう。
心を削がれる役割も一緒に自分が担うと――――……言っていやがった。
――――馬鹿は馬鹿なりに……、わかってんじゃねぇか。
――――お前の項を削ぐ刃は……きっと……
これまでにないほど、重かったに違いない。